スイスで最も美しい街ルツェルンを散策

ルツェルンは中央スイスの小さな街。中世の建築物が立ち並ぶ旧市街にはおとぎの国のような街並みが広がり、ルツェルン湖の向こう側には美しいアルプスの山々が連なる。
ヨーロッパで最も古い木造の橋であるとされるカペル橋が観光スポットとして広く知られて、世界中からたくさんの観光客が訪れる観光都市でもある。
カペル橋が掛かっているロイス川ルツェルン湖の水は都市とは思えないほど透明度が高く、魚が泳いでいるのがたくさん見える。(湖や川の水が澄んでいるのはスイスでは決して珍しいことではないのだが。)

『ルツェルンはスイスで一番美しい街である』という文面もときおり見かけるけれど、本当にそうかもしれないと思う。
スイスには美しい街や村がたくさんあるので一番を決めるのは簡単ではないのだが、都市を囲む豊かな緑と湖の深い青、そしてアルプスの山々を覆う雪化粧が中世の街並みを見事に引き立てる様は、他の都市ではなかなか見られない光景かもしれない。
街のどこを写真にとっても絵葉書のような美しさになってしまう。

スイスのパンデミック事情

この記事を書いているのは2020年5月26日。
ロックダウンは緩和されてきているものの、隣国との国境を除いては交通規制が続いている。

だからスイス在住者以外の観光客はここにはいないはずなのだが、街の中は通常とそれほど変わらないような人通りに見える。
パンデミックはもう終わったのかと錯覚してしまいそうだが、観光バスが常時停泊しているエリアはガランとしているので、ロックダウン以前との違いは明白である。

勝手なことを言うようだけれど、個人的にはこのくらいの混雑具合がちょうど良い。

レストランのテーブルは通常よりも間隔を広く取って配置されているので、隣の客の会話が気になることもないし、店員さんもすぐに来てくれる。駐車場探しに時間がかかることもないし、トイレに並ぶこともない。観光スポットでもうまい具合に人を避けて写真が撮れる程度の混雑具合で、人の多さにそれほどストレスを感じることがない。

もちろん観光業界が大きなダメージを受けているのは知っているけれど、あそこまでの激しい雑踏が戻ってくることを、私の本心は願っていないことを改めて感じた1日であった。

ショップのレジやレストランに置かれた透明プラスチックの仕切り壁は、早く撤去されて欲しいと思うのだけれど。(感染を防御する必要がない状況になって欲しいという意味で)

 

ところで前の記事にも書いたけれど、スイスでは外出を完全に禁止してはいなかったから、ロックダウンが始まった頃からどこの街も、公園などには人々が集ってしまうという似たり寄ったりな有様だと思う。マスクをかけて歩いている人はあまり見かけないし、ウエイトレスさんやショップの店員さんたちも、マスクやゴム手袋ををつけている人は多くはない。

賛否両論あると思うのだけれど、私は個人的に普通に過ごすことができてありがたいと感じている。ここでは他人をバイキン扱いするほど敏感になりすぎている人を見かけないし、恐怖に慄いている人々の存在を窺い知ることがない。街の中には笑顔と笑い声がいつものように溢れていて、そんな人々の楽観的でおおらかな気質のおかげで、私は平穏な日々を送ることができると思っている。

『コロナと戦う』とか『コロナ撲滅に向けて…』とかってフレーズに私は少なからず違和感を感じている。そもそも戦いは好きではない。コロナに限らず、何かを打ち負かすとか、消滅させようと動くのは、何か私の思いにそぐわない。
もちろん病気になりたくはないし、身近な人が感染してこの世をさることになったら、それは悲しいだろうけれど。でも生と死というのはいつも隣り合わせにあって、この世はそういう世界なんだと思っている。私の体の中でさえ、この瞬間にたくさんの細胞が死んで、そして新しい細胞が生まれている。だからこの世界にコロナウイルスが今あるんだったら、あってもいい生き方がしたいと思う。あっても幸せに生きたいと思う。

 

話をルツェルンに戻そう(笑)

ルツェルンのシンボル・カペル橋

上の写真はカペル橋(Kapellbrücke)。1333年に建造されたヨーロッパで最も古い屋根付きの橋で、ルツェルンのトレードマークとなっている。
三角屋根の内側には、ルツェルンとスイスの歴史や守護聖人にまつわる伝説などが描かれたパネルが柱ごとに一枚ずつ掲げられている。

実はこの橋は1993年に大火災に遭って、橋の大部分と板絵のほとんどが焼失するという大惨事をむかえている。

この大火事のことをスイスの歴史的な惨事と記憶しているスイス人はとても多く、カペル橋はルツェルンの人々ばかりでなく、スイス人にとってシンボル的な存在なのであろうことがうかがえる。

きっと清水寺の大部分が火災で焼失してしまったとしたら、京都の人々ばかりでなく日本中が悲しむのではないかと思うのだけれど、カペル橋はスイス人にとって、日本の清水寺に相当するような存在なのだと言えそうだ。

火災から30年近く経過して橋自体はきれいに修復されいるけれど、板絵はいまだに焼けたままの真っ黒いものがたくさん残っている。なんでも修復が困難なほど焼けてしまっているのだとか。

だからこの橋は14世期に建設されたのではない部分が大半を占めるのだけれど、見た目の素朴な可愛らしさは街のシンボルとして十分だと思う。

橋の中腹にある8角形の塔は見張り台として建設されたもので、カペル橋の建設よりもずっと前からあったもの。ヴァッサートゥルムというのがこの塔の名前で、ドイツ語で水の塔という意味である。もともとは川の中にポツンと建てられていたものに、後ほど川の対岸まで行き来できる橋がかけられたということなのだろう。

 

ルツェルンにはもう一つ木造の橋がある

カペル橋からロイス川を少し下流へ下ったところにもう一つ、三角屋根の古い木造の橋がかかっている。こちらはシュプロイヤー橋(Spreuerbrücke)。橋自体のビジュアルはカペル橋ほど個性的ではないものの、こちらも1408年に建設された歴史的価値の高い木造橋であるのは同様のこと。
繰り返し修復が行われているので全てが15世紀のままに残っているわけではないが、こちらの橋は火災には遭っていないので、建設当時の原型をより多く残している。

カペル橋の屋根の内側と同様に、こちらにも柱ごとに板絵がかけられている。
17世紀にカスパール・メグリンガー氏によって製作されたという『死の舞台』というタイトルが付いた板絵は、ヨーロッパでペストが流行していた時期に死をモチーフに描かれたとのこと。

よく見ると骸骨頭で骨だけになった亡霊が所々に描かれていて、死と隣り合わせに生きる街の人々の姿が見て取れる。

こんな絵を偶然にもパンデミック中に見ることになるとは…笑

 

ライオン記念碑

写真左上は『ライオン記念碑』。ここは観光客は必ず行くところなんではないだろうか。

フランス革命の際にパリのテュイルリー宮殿でルイ16世の命令を受け、あのマリー・アントワネットやその子供たちを守るために戦い、700人以上の兵士が降伏後に市民に無抵抗のまま殺害された。そのスイス人傭兵たちを偲んで作られた記念碑である。

もともとこの場所にあった崖岩に直接彫刻された大きなライオンの象で、その背中には矢が刺さり『瀕死のライオン像』という呼び名もある。

スイス傭兵といえば、バチカン市国で現在もなお法皇の警護にあたるスイス兵士が有名なんではないだろうか。

スイスはヨーロッパのほとんどの大国のように、王侯貴族が繁栄しなかった農耕民族中心の国で、建国した1291年まではハプスブルク家に支配されていた。しかもアルプスの硬い岩盤に覆われた痩せた土地では作物がなかなか育たなかったそうだから、資金繰りのために傭兵を外国に貸し出して、国の運営をしていた過去がある。
その傭兵たちはとても勇敢で忠誠心があり、各国で多くの偉業を成し遂げたのだと言う。

悲しい過去であるのと共に、そんな立派な先祖を持つことはスイス人の誇りでもある。

 

メルヘンチックな古城ホテル

写真右上、中央の小山の上に立っている美しい建物はシャトー・ギュッチ(Château Gütsch)。19世期に建設された古城を改装して作られたホテルで、街のどこからでも見えるような高台にぽつんと立っている。

知らない人も「あれはなんだろう?」と気にならずにはいられないはず。
おとぎ話に出てきそうなメルヘンチックなビジュアルは、どこかドイツのノイシュバンシュタイン城を思わせる。

市内から見える古城も絵になるのだが、ホテルがある高台からはルツェルン市内はもちろんのこと、ルツェルン湖やその背景に広がるアルプスまでが一望できるホテルのテラスは、最高の展望台でもある。時間があれば是非行ってみると良いところ。

車でホテルに乗り付けることもできるし、市内から古城ホテルまでを繋ぐゴンドラも運行されているので便利。▶︎Gütschbahn

美しいルツェルン湖

湖の名前は日本語ではルツェルン湖、英語でもLake Lucernとされているのだが、ドイツ語ではフィアヴァルトシュテッテ湖(Vierwaldstättersee)という名で呼ばれる。『4つの森の州の湖』という意味で、その名の通り4つの州に囲まれていることから付けられた名称。現在はその中の一つの州が二つに別れたため、5つの州に囲まれている。

とても入り組んだ形をしているのが特徴の湖で、その一部は対岸と繋がりそうなくらいにくっついている所もある。
湖畔からは美しいアルプスの絶景が望めるので、市街地付近は高級ホテルなどが立ち並ぶ一等地であり、市内を抜けると豪邸が連ねていて裕福層が多く生活しているのがうかがえる。
やはり湖や海など水が見える土地というのは、どこでも繁栄していものなんだと思うのだけど。

写真右上の左側に写っているモダンな建物は、建築家ジャン・ヌーベル設計のKKLというコンサートホール。これもルツェルンの観光名所として知られている建物で、建築好きの人には必見ではあるのだけれど、こちら側からの眺めはやや控えめで迫力がない。近くで見た方が薄く大きな屋根の迫力がより伝わってくるので、興味のある人は対岸川へ。

 

 

水辺じゃないが穴場な老舗のカフェレストラン

川沿いと湖沿いのレストランはすでに空席が少なかったので、そんな時にいつも立ち寄るCafé de Ville – Restaurant Schwanen/レストラン・シュヴァーネン(シュヴァーネンはドイツ語で白鳥の複数形)で休憩をすることに。

大通りとバスターミナルが近くてガヤガヤしているところだけれど、レストラン内は静かで落ち着いている。軽食ばかりか本格的な食事も取れるカフェレストランで、ケーキも充実。コーヒーも美味しい。
テラス席からは湖も見えるし、近隣の騒音や人混みを除けば申し分ない場所だと私は思っている。
写真右はテラス席からの眺め。湖とは反対方向を撮影したものだけれど、中世街並みとロイス川が見えて、眺めは決して悪くない。

写真のキッシュ・ロレーヌ(Quiche Lorraine)玉ねぎとベーコンのキッシュは、小腹が空いた時によく頼むメニュー。

 

 

ルツェルンは私が住んでいるチューリッヒからは車で立ったの1時間弱。渋滞にさえ合わなけれなあっという間に到着してしまうような距離だけれど、ここ数年は何かのついでにチラッと立ち寄るくらいなものだった。だからこんなにのんびり市内を観光したのはとても久しぶりのこと。

天気に恵まれたおかげで綺麗な写真がたくさん撮れ、改めてルツェルンは美しい街だと感動した気持ちをお届けできたらと、長くなりましたが一つの記事にまとめました。

 

 

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